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INTERVIEW

テクノロジーと新たなビジネスモデルで水産業界を再構築する起業家

株式会社ベンナーズ
代表取締役 井口 剛志

    現在、日本の水産業界には、漁師の減少や水揚げ量の低下など多くの課題が山積している現状があります。そんな中、「水産業界に関わる、全ての人を豊かにする」をミッションに掲げ、業界の流通構造の改革に活路を見出そうとしているのが株式会社ベンナーズです。2018年の創業以来、プラットフォーム事業「Marinity(マリニティ)」や、クラウドファンディングを活用した「うみのうち事業」など、新たな仕組みを導入した取り組みに注目が集まっています。そこで、同社の代表・井口 剛志さんに事業を始めたきっかけや今後の展望について伺いました。

    稼げる漁業を実現したい。プラットフォームで目指す水産業界の流通改革

     まず、事業を始めるに至った課題背景について教えてください。

    井口 現在、日本で漁業に携わる人は減少傾向にあり、平均年齢も60歳前後と高齢化が進んでいます。理由の一つに、日本近海で獲れる魚には新鮮で良質なものが多いにも関わらず、魚の売り手である漁師には価格の決定権がなく儲からない現実がありました。この問題は、祖父母と父が水産関係者で、幼い頃から漁業に触れてきた私には他人事に思えなかった。そこで、当時アメリカの大学で学んでいたプラットフォームビジネスであれば、この現状を打破できるのではないかと思ったんです。プラットフォームによって情報の流通性を高め、売り手が値段を決められる仕組みを作ることができれば、漁師が稼げるようになり水産業界の現状を変えられると考えました。

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     そこからプラットフォーム事業「Marinity」が始まることになるんですね。

    井口 はい。これは漁業において、全国の売り手(セラー会員)が持つ「水揚げされる魚の情報」と、買い手(バイヤー会員)が持つ「ニーズの情報」をクラウド化して共有することで、魚の売買を効率化するサービスです。従来、この2つの情報は近隣の市場でしか流通しておらず、非常に閉鎖的な状況にありました。また、売り手から買い手の間には複数の中間業者が介在することが多く、俯瞰してみると無駄な手数料が発生していたりとブラックボックス化していたんです。そこで、私たちは「Marinity」によって情報をオープンにすることで、水揚げされた魚の需要と供給を最適な形でマッチングさせ、売り手と買い手の販路をシンプルにすることによって利益を最大化させる仕組みを構築しました。

     事業を行う上で大切にしていることは何かありますか。

    井口 あえて「売り手」「買い手」と表現を広くしていて、漁師や市場など断定した表現を用いていません。なぜかというと、漁業関連において、売り手にも買い手にもなる立場の人って結構多いんです。例えば、水産加工会社って原料を仕入れる買い手でもあるし、商品の売り手でもある。仲卸も同じです。確かに「Marinity」は流通をシンプルにしますが、業界の古い構造を壊したいといったものではなく、あくまで漁師を始めとした水産業界に携わる全ての方々が、本来の役割を最大限活かすための仕組みでありたいという風に考えています。

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    捨てられる魚に活路。クラウドファンディングから始まった「うみのうち事業」

     現在は「うみのうち事業」に注力されていますね。

    井口 はい。これは漁師の方が獲ってきた、通常は廃棄されるような市場に並ばない魚を加工することで「ミールキット」として販売する事業です。この背景には、博多湾の北にある志賀島で水揚げされた魚のうち、2トン近くが廃棄されてしまう現実がありました。しかしその中には規格外だから市場に出せないだけで、美味しく食べられる魚も多く存在します。これを販売することができれば漁師にとってエクストラな収入になりますし、水産業界全体も潤うのではないかと考えました。漁師目線でいうと「捨てるはずの魚も売れるので収入が上がる」、消費者目線でいうと「鮮度の良い高いクオリティの魚が安く食べられる」という仕組みですね。水揚げされたその場で美味しい魚を選定し、漁場近くの加工場ですぐに加工・冷凍を行っているので高い鮮度を保てるのが特徴です。

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     この事業を始めた背景には、新型コロナウイルスの影響も大きかったのではないですか。

    井口 そうですね。新型コロナの影響で外食の売上が全体的に減っている中、私たちのプラットフォーム事業も売上の減少に悩まされていました。そんな中、入居先のFukuokaGrowthNextの方に相談した所、現在「うみのうち事業」で業務提携をさせていただいている株式会社パノラマの代表・斎藤さんをご紹介いただいたんです。斎藤さんは福岡市内で海鮮居酒屋を経営しており、漁の手伝いをして魚を仕入れることや、魚の目利きをすることができたので、この出会いによって「うみのうち事業」が実現することになりました。私個人としても、消費者に近い場所で何かをしたいという想いはずっとあったんです。なので、これは今やるべきなんじゃないかという気持ちで、2020年5月末にクラウドファンディングとしてスタートすることを決めました。

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     クラウドファンディングも目標額の370万円を達成されましたね。今後はどのように展開していく予定ですか。

    井口 まずは福岡でこの事業を「Fishlle!(フィシュル)」というブランドとして確立し、全国展開させていく予定です。全国的にみても福岡は食の都という部分も大きい。福岡でできた商品はブランドになるなと思いました。福岡を第1弾として、次は仙台で第2弾、北海道で第3段、という風に展開していけると嬉しいですね。やはり水産業は物流費が大きなコストを占めているので、水揚地に近い場所で加工をしないと意味がない。福岡でノウハウを貯めてビジネスモデルを確立し、それを横展開していくことで各地で別ブランドが立ち上がるようなイメージです。私も1年ほど福岡で水産の仕事をしてきましたが、おかげさまで全国にネットワークができました。東北の仲卸の社長さんから「俺とやろうよ」とお声がけもいただいているので、私自身これからの展開を楽しみにしています。

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    漁師と消費者、両方の視点から水産業界を変えていく

     事業を通じて、実現したい未来について教えてください。

    井口 私たちは「日本の食と漁業を守る」をビジョンに掲げています。しかし現在、魚の売り手も減っていますし、食べられる魚の量も徐々に減っています。消費量を増やさなければ、流通量が増えることはない。上と下から両方のアプローチが必要になってくると私は考えています。そのため、今後も消費者目線からのアプローチである「うみのうち事業」に注力することで魚の消費量を増やし、売り手目線からのアプローチである「Marinity」で漁師にとってベストな仕組みを構築していく予定です。こうした事業を通して私たちは、漁師が稼げるカッコいい職業として注目を集め、自分の孫の世代が日本ブランドの魚を当たり前のように食べている、そんな未来を実現していきたいと思います。

     これから起業する人に向けてメッセージをお願いします。

    井口 チャレンジすることをリスクに感じず、迷ったときはまずやってみることが大切だと思います。ただこれは、なんでもかんでもやれということではなく、迷ったとしても行動した先に答えがあると思うのであればやってほしいということです。また、自分の考えやアイデアを周囲の人に話すことも重要だと思います。もちろん厳しいご指摘をいただくことも多々ありますが、きっと続けているうちにサポートしてくれる人や応援してくれる人が増えるはずです。私自身、起業してから人との出会いに助けられた経験が多いと感じています。ぜひ臆せず、挑戦してみてください。

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    writer

    ライター

    赤坂 太一

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