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オングリット株式会社

代表取締役CEO 森川 春菜

土木×ITで挑む社会課題。社会インフラ問題と就職難を解決する起業家の「やり抜く力」とは

「仕事が見つからない」と悩むシングルマザーの友人を助けたい。専業主婦だった女性が、そんな想いで一念発起し、全く新しいCADシステムを開発。それは土木業界の抱える問題の解決とも結びついていました。福岡市にあるオングリット株式会社は、橋やトンネル、街灯などの点検調査と、点検時に使用するロボットやAIシステムを開発している会社です。未経験で土木の世界に飛び込んだ代表取締役CEOの森川春菜さんに、サービスや社名へ込めた想いなどについてお話を伺いました。

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土木の現場に即したシステムやロボットを開発

 まずは事業内容について教えてください。

森川  建設コンサルタントの一次下請として、橋やトンネル、街灯などの点検調査と、点検時に使うロボットやAIシステムを開発しています。また、「マルッと図面化」というサービスで、点検業務を行っている会社のオフィスワークもサポート。その際に使用するシステムは、CADや土木に関する知識がない人でも簡単にCAD図面化できるものを自社で開発し、リモートワークでアウトソーシングする事業も行っています。

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実際の街頭点検で使用されるロボット

  点検調査に使うロボットやシステムはどのようなものですか?

森川  現在開発しているのは、街灯の点検に特化したロボットです。街灯の点検は、技術者が近くで見て確認する“近接目視”とハンマーで叩いて内部に異常がないかを調べる“打音検査”を行うよう、法律で定められています。それを、360度撮影できるカメラと振動センサーを搭載したロボットで実施し、結果をAIで分析することで人が行うのと同等の点検を可能にしました。この調査は人力で行うと手間と時間が相当かかるのですが、このシステムならかなりの省力化が見込めます。現在は、フィールドテストを行っている段階です。

  「マルッと図面化」についても詳しく教えてください。

森川  「マルッと図面化」は、点検業務を行っている会社から、点検後に発生する図面化や解析、報告書制作などの業務を受託し、忙しい技術士の皆さんをサポートするもの。調査で撮影した写真を送っていただき、弊社のAIシステムでメインの損傷を認識させてCAD図面化しています。その際、AIでは認識できなかった部分は、人がペンで辿ることで図面に反映することが可能です。このシステムにより、シングルマザーや過疎地域にお住まいで仕事がない方など、CADや土木の知識がなくてもリモートで作業ができるようにしました。現在は、障がい者を支援する沖縄の団体を通して、障がいのある方々にアウトソーシングしています。

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  御社の強みはなんですか?

森川  自分たちでも点検業務を行っているので、現場の実態に即した開発やデータ収集ができることですね。例えば、ボルトがきちんと締まっているかをAIに認識させるためには、教師データとなる画像が1万枚以上必要です。私たちは、それを現場で調査をしながら採取することができます。また、スタッフは開発と現場の両方に携わっているので、そこに垣根がないのも特徴です。開発しているのは価格的、技術的にも下請けの企業が使えるもの。なぜなら、大手企業と大学が一緒に開発する最新技術を搭載したシステムは高価なものが多く、下請けではなかなか使えないからです。一方、私たちは、現場で本当に必要としている技術だけを搭載したものを、スピードを持って手に届く価格で開発できます。

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きっかけは友人からの相談。社会問題の解決につながるシステムを目指す

  これらの業務に着手した理由を教えてください。

森川  一つは、土木業界における人手不足の問題を解消するためです。2028年には56万人もの技術士が定年退職を迎えるとされており、点検できる人は減るのに、設備の老朽化は進んでいくことに対して、国や自治体も危惧を感じています。実際に事故なども起き、すでに社会問題にもなっています。しかし、経験が浅い技術者による点検では、ヒューマンエラーを起こす可能性もある。そこで、誰もが同じ点検結果を出せるシステムを構築し、その問題を解決しようと考えました。もう一つの理由は、リモートワークで初心者が自宅で仕事をできるシステムを開発することで、過疎地で仕事がない人や、家庭の事情などでなかなか就職できない人にアウトソーシングしたいと考えたからです。

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  アウトソーシングしようと考えたきっかけは何ですか?

森川  シングルマザーの友人から、「なかなか新しい仕事に就けない」と相談を受けたことです。その頃、ゼネコンで開発の仕事をしていた夫から、土木業界の人手不足や長時間労働の問題について聞かされていました。仕事がなくて困っているシングルマザーと、人手不足の土木業界をマッチングできないか。そう考えて夫に相談したところ、「点検要領などを全てデータ化すれば、知識がない人でも土木の仕事を手伝えるようなシステムを作れるかもしれないね」とアドバイスを受けました。当時の私は専業主婦。そこから必要なデータを打ち込み始め、4年半ほど掛かってようやくデータベースが完成しました。その後、システムは独学で勉強をしたり夫に手伝ってもらったりして、開発を進めていきました。

  福岡で起業した経緯を教えてください。

森川 福岡には夫の転勤で来ました。そしたら、ちょうど福岡でビジネスプランコンテストが開催されるとのことだったので、参加することに。すると、ファイナリストに残ることができ、それを機に起業のアドバイスをいただくことができました。その後、AIを使った図面化のテストとして、留学生5名と共に福岡市内にある200橋の点検調査を実施。その結果、福岡市から高い評価をいただき、起業しました。福岡の人柄や土地柄には挑戦させてくれる懐の深さがあるように感じています。

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社名に込めた想い「やり抜く力」で未来が動き出す

  起業家として大事にしているマインドはどのようなものですか?

森川 社名にも入れている「グリット(GRIT)=やり抜く力」ですね。なんでもやり続けていることで見えてくるものがありますし、まずはやってみないと出会えないものがあると思うんです。実際に動き始めると、新しい課題や発見など取り組むべきことが出てきますよ。土木の知識もシステムの知識もなく、用語も分からなかった私でも頑張れたのは、「友人を助けたい」という信念にも似た想いが「やり抜く力」につながったから。自分の行っていることが、友人だけでなく土木業界を救い、社会問題を解決することだと信じてきたことが、今につながっているのだと思います。

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  今後の展望を教えてください。

森川 まずは、全国にアウトソーシングを広げていきたいと思っています。今は障がい者団体にお願いしていますが、いずれはシングルマザーのみなさんにもお仕事をお願いしたいですね。国内で構築した後は、発展途上国にもアウトソーシングを進めていきたいと思います。

  これから起業しようとしている人へのメッセージをお願いします。

森川 起業には、例え失敗しても「やり抜くこと」と「想いを口に出すこと」が大事だと思います。私は、起業の前後にさまざまなビジネスコンテストに参加しました。もちろん、営業として多くの方に知っていただきたいとの想いもありましたが、何より自分の考えを知ってほしかったからです。想いは、口に出さないと伝わりません。口に出すことで、困っていることにアドバイスしてくれる人に出会えることも。自分の想いを言葉にしながら、ぜひやり抜いてください。

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ライター / 神代 裕子