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株式会社Smolt

代表取締役 上野 賢

宮崎大学発!持続可能なサクラマス養殖技術で、世界に誇れるブランドを目指す起業家

株式会社Smoltは2019年に設立された、宮崎大学発のベンチャー企業です。「水産資源と水産業のサステナブルな関係を構築する」をミッションに掲げ、サクラマスを陸上の水槽と海上生け簀を使った循環型の養殖を行っています。サクラマスやイクラを生産するだけでなく、稚魚をビジネスの種にし、将来的には水産業界の活性化に一役買いたいと語る上野さんにお話を伺いました。

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サクラマスの生態を活用した、持続型の新しい養殖生産の誕生

 まずは事業内容を教えてください。

上野 サクラマスの養殖に関する事業です。ヤマメ(のちのサクラマス)は川に棲息し、秋に産卵を行いますが、十分に成長できなかったヤマメは海へ移動する性質があります。海へ出たヤマメはサクラマスと名前を変え、鮭の最高峰とも呼ばれるほどの高級魚となります。私達は陸の水槽と海上の生簀をつかって、これらを擬似的に起こさせる装置やシステムを考案しました。

 宮崎大学での研究が発端だそうですが、どんな課題がきっかけだったのでしょうか。

上野 2012年の大学と地域との共同研究から始まっています。冬は川の水が3,4度まで下がるためヤマメはエサを食べなくなり、個体が大きくならないという悩みが宮崎県五ヶ瀬町の養殖業者さんから寄せられていました。一方で魚が自ら川を下るのは北海道や東北といった寒い地域では当然のことなのですが、水温が高い宮崎では起きにくいものでした。もしかして海の水温は温かいのでは?という気づきから海へ魚を入れたのが始まりです。そこから川と海、そしてまた川へと循環して養殖するという発想に繋がりました。

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 上野さんの研究が事業化に大きく貢献したそうですが、具体的には?

上野 私は2016年から参加しました。ヤマメは川から海へ移動する際、海水でも生きられるよう銀化(ぎんけ)と言う劇的な変化を遂げます。しかし養殖では銀化したりしなかったりと個体差が生まれ、コントロールが大変です。そのまま海の生簀に入れると死んでしまうため、どうしたら健康なまま海へ持っていけるかという点も課題でした。事業化に繋がったのは、環境条件の調節や魚本来の能力を引き出すことに着目し、成果を上げられたからです。研究は今も続いています。もちろんこれらは、地道に技術開発を行なってきた先生と先輩方の功績の延長線上にあります。

 現在動いているプロダクトと、今後の事業展開を教えてください。

上野 まずは宮崎発の養殖のサクラマスを広く知ってもらうため、フラッグシップとなるような製品を世に出すことに力を注いでいます。ネット通販のほか、レストランを通じて一般の方にも食べていただきながら、評価を上げていきたいと思っています。新型コロナウィルスの自粛期間中には、親子でヤマメの塩焼き体験ができる「ヤマメ Stay At Homeキット」を販売しました。ヤマメとモビールをセットにしたものです。ご家族で楽しんでいただけたようで、食育の点でもビジネスチャンスがあると感じました。

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研究から事業へ。水産業界に風穴を開ける仕組みを作りたい

 研究が事業へと成長できた理由はなんでしょうか。

上野 実は、サクラマスの研究自体は教授や先輩方によって長年行われてきたこともあり、すでに熟した状態にありました。あとは誰がやるかという状況だったのですが、やはり大学には研究者気質の方が多く、なかなか実際にやろうという人がいなかったんです。そんな中で研究を進めていると、生産者さんの声を直接聞いたり、情熱に触れたりする機会が多くなり、私の中で「なんとかしてその気持ちに応えたい」という想いが徐々に強くなっていきました。また私自身、岩手県の釜石市で生まれ育ち、小さいころはヤマメやサクラマスを釣っていました。遠く離れた宮崎の大学に進学して、偶然にもヤマメと関わることに何かの縁を感じたこともあって、事業として始めることを決心しました。

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 この事業が水産業界にあたえるインパクトは?

上野 水産業界は他の業界に比べると新しいものが入りづらい業界で、この事業で風穴を開けるような仕組みを作っていきたいと思っています。また世界的に漁獲量の減少が危惧され、漁獲制限が行われていますが資源量の回復はなかなか追いついていないのが現状です。そこでまずは養殖業を盛んにしてそれらを補い、かつ水産業に関わる人たちを増やしていきたいんです。将来的にはいろんな魚を世の中に提供できる人が増えるのが理想です。

 起業を後押しした出来事は何かありましたか。

上野 大学4年生だった2017年、学内のビジネスプランコンテストに出場しました。それまで研究ばかりでしたが、ここで初めて社会や世界を視野に入れた、ビジネスの視点をもつことができるようになったんです。2018年の大学院生の時には宮崎県のビジネスプランコンテストに参加し、経営者や銀行の方など様々な方と出会うことができました。当初はサクラマスやイクラの販売のみを全面に押し出したビジネスプランでしたが、2つ目のコンテストを通じて自分たちのポジションを構築しながら事業計画を考えることが大事だと気づきました。そこで稚魚を販売するという2つ目のビジネスプランができあがったんです。

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山と海の豊かな資源とそれを取り巻く人こそが、地方の価値


 上野さんの考える地方で起業することの意義を教えてください。

上野 東京や福岡などのほうが、シェアオフィスなどの起業環境は整っていると思います。宮崎ではそれらが少ない分、いろんな方からの支えがあると思っています。また、地方のメリットはたくさんあると考えていて、山や海といった豊かな資源と、それらに携わる情熱にあふれる人たちが大勢います。私は山や海などに加えて、その地域の人も地域資源だと考えています。そんな地方の魅力を、地域を越えて世の中にどう打ち出していくかということも、これからのポイントになってくるのではないかと考えています。

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 これからの予定を教えてください。

上野 最近、新しいパッケージでサクラマスのイクラである「つきみいくら」の予約販売を開始しました。このイクラは黄金色をしていて非常に綺麗です。ホテルや料亭に売り出すことで、まずは宮崎ブランドの「養殖イクラ」として日本全国に定着させていきたいと考えています。このように、私は養殖のサクラマスを一過性でなく、宮崎の象徴として、文化の一つとして根付かせていきたいんです。そして、ゆくゆくはジャパンブランドとして中国や世界に広めていけるようなクオリティの高いものを目指して準備を進めています。

 最後に今後、何かに挑戦しようという人にメッセージをお願いできますか。

井上 僕がどうこういえる立場ではありませんが、自分がやらなくてはいけないと感じたらまずは実行してほしいと思います。行動するうちにいろんな出会いが生まれ、共感してくれる人たちも自然と現れるはずです。自分の全てを包み隠さず話して、相談できる人が物理的に近い距離にいるとよいですね。もしくじけそうになったら、泣きついたりしてもいいんです。きっと真剣な挑戦であれば、支えてくれる人も現れるはずなので、自分の気持ちに正直になって行動に移してみてください。

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ライター / 山本 陽子